年金繰り下げ受給のデメリットは?加算額の計算方法や手続き手順を徹底解説

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「年金の繰り下げ受給ってなに?」

「年金繰り下げ受給のデメリットは?」

など、将来もらえる年金額が多くなることで知られている年金の繰り下げ受給について、疑問がある方も多いでしょう。

年金繰り下げ受給は、増額率が最大84%になるので、一定条件を満たす方は十分な恩恵を受けられる年金制度です。

そこでこの記事では、年金繰り下げ受給の概要繰り上げ受給との違いメリット・デメリットなどを紹介します。

年金繰り下げ受給に向いている人の特徴もお伝えするので、迷っている方は参考にしてください。

目次

年金の繰り下げ受給とは?

年金の繰り下げ受給とは、原則として65歳から受け取れる年金を66歳以降から受け取り開始することです。最長75歳まで受給開始時期を繰り下げることが可能です。

また、会社員として働いている方は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2種類を受給できるのですが、この2つは別々に繰り下げて受給できます。

年金を1か月繰り下げるごとに受給額は0.7%増加します。

例えば、受給開始年齢を70歳にした場合、年金額は42%増加することになります。

出典:日本年金機構|年金Q&A「老齢厚生年金を繰下げ請求した場合、どのくらい増額して受給できるのですか。

加算された年金額は一生受け取れるので、恩恵を受けられる人も多いでしょう。

ただし、昭和27年4月1日以前生まれの方または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方は、繰り下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までなので、注意しましょう。

参照:日本年金機構「年金の繰下げ受給

年金繰り上げ受給との違いは?

年金繰り上げ受給とは、原則65歳から受け取り開始できる老齢基礎年金と老齢厚生年金を60歳から前倒しして受け取ることができる制度です。

この制度を利用することで、早い時期から年金を受け取ることができますが、受給額が減額されます。

減額率は0.4%(※1)で、繰り上げる月数に応じて減額されるため、60歳から受け取る場合、最大で24%の減額となります。早めに年金を受け取りたい方は、この減額率を考慮して慎重に申請する必要があります。

また、繰り上げ受給を選択した場合、一度決定するとあとから変更できないため、注意しましょう。

※1 1962年4月2日以降生まれの人が0.4%、1962年4月1日以前生まれの人は0.5%

参照:日本年金機構「年金の繰上げ受給

年金繰り下げと繰り上げ受給のシミュレーション

老齢基礎年金が月10万円(年間120万円)の場合、繰り下げ受給と繰り上げ受給でどのくらいの金額差が出るのかシミュレーションします。

  • 60歳に繰り上げて受け取る場合:月額76,000円、年間912,000円
  • 75歳に繰り下げて受け取る場合:月額18万4,000円、年間220万8,000円

このように、60歳と75歳では月額10万8,000円、年間129万6,000円の差が出ます。ゆとりのある老後生活を求める方にとって、年金繰り下げ受給は効果的な手段といえるでしょう。

ただし、年金繰り下げ受給は、受給期間が長くないと逆に損する可能性もあるので、計画性が大切になります。

例えば、65歳から受け取りはじめた場合の累計額をと比べて、それを超える年齢は以下のとおりです。

 出典:Ke!+san「老齢基礎年金の繰上げ、繰下げ受給
受給開始年齢
60歳65歳70歳75歳
60歳91万2,000円
65歳547万2,000円120万円
70歳1,003万2,000円720万円170万4,000円
75歳1,459万2,000円1,320万円1,022万4,000円220万8,000円
80歳1,915万2,000円1,920万円1,874万4,000円1,324万8,000円
81歳2,006万4,000円2,040万円2,044万8,000円1,545万6,000円
85歳2,371万2,000円2,520万円2,726万4,000円2,428万8,000円
86歳2,462万4,000円2,640万円2,896万8,000円2,649万6,000円
参照:Ke!+san「老齢基礎年金の繰上げ、繰下げ受給
  • 70歳から受け取りを開始した場合:81歳で65歳の累計額を超える
  • 75歳から受け取りを開始した場合:86歳で65歳の累計額を超える

このように、80〜86歳くらいまでは受給を続けないと、65歳から受け取りはじめたほうが累計受取額は多くなってしまいます。

年金繰り下げ受給の加算額の計算方法

年金繰り下げ受給の加算額の計算方法は「0.7%×65歳に達した月から繰り下げ申し出をした月の前月までの月数」です。

「65歳に達した月」とは、65歳になった日の前日のことです。そのため、7月1日が65歳になる誕生日の場合は6月30日が達した月に該当します。

例えば、68歳から年金を受給開始したい場合、3年間繰り下げることになります。そのため、増額率は「0.7%×36か月(3年)」で「25.2%」です。

仮に、年金額が年間180万円で、75歳まで繰り下げる場合、増額率は「84%」になります。その結果、年間の年金受給額は「331.2万円」となり、年間「151.2万円」が加算されることになります。

出典:日本年金機構|年金Q&A「老齢厚生年金を繰下げ請求した場合、どのくらい増額して受給できるのですか。

繰り下げ増額率を計算する際は、以下の早見表を参考にしてください。

出典:日本年金機構「繰下げ加算額

年金繰り下げ受給のメリット2つ

年金繰り下げ受給のメリットを2つ紹介します。

増額した年金額を一生涯受け取れる

年金繰り下げ受給の最大のメリットは、増額した年金額を一生涯受け取れることです。仮に、75歳まで繰り下げた場合、最大84%増額されます。

1年間繰り下げただけでも8.4%増額されるので、年金額を多くしたい方には繰り下げ受給は魅力的な方法です。

最近は老後のために投資も活用する方が多くなっていますが、投資は元本保証がありません。一方、年金繰り下げ受給の場合は、元本割れの可能性がないためリスクなく将来の老後資金を増額できます。

ただし、法改正により増額率が変更になる可能性はあるので、年金以外の老後資金の準備もしておいたほうが安心でしょう。

生活の安定

受給できる年金額が増えることで、老後の生活費の安定につながり、将来の経済的な安心感が増します。

定年退職前にある程度の資産を増やしておき、繰り下げ受給による増額を最大限に活用することを検討すると良いでしょう。

これにより、老後の生活にゆとりを持ち、より安心した生活を送るための経済的基盤を築くことができます。

年金繰り下げ受給のデメリット4つ

将来もらえる年金額が増えるのが魅力的な年金繰り下げ受給ですが、気をつけておきたいデメリットも存在します。

デメリットも理解したうえで、年金繰り下げ受給を利用するか検討しましょう。

税金や保険料が上がる

繰り下げ受給で年金が増えると、税金や社会保険料が高くなる可能性があります。

【影響する税金や社会保険】
  • 所得税
  • 住民税
  • 国民健康保険
  • 介護保険

上記の4つは所得額によって納める税金や社会保険料が決まるため、実際受け取れる年金額が多くならないケースもあります。

また、医療保険や介護保険の自己負担割合が増える可能性もあるので、注意しましょう。

年金繰り下げ期間中はもらえない年金がある

年金を繰り下げしている間は、加給年金と振替加算が受け取れない可能性があります。

加給年金とは、扶養手当のような役割がある年金です。会社員や公務員など厚生年金を受け取れる被保険者(20年以上の厚生年金保険に加入している)が65歳に達したとき、配偶者や子どもなど扶養している場合に、老齢厚生年金に加算される形で支給されます。

振替加算とは、65歳以降で一定条件を満たしている配偶者の老齢基礎年金に加算される年金です。

配偶者が65歳になると加給年金が打ち切られます。この際、配偶者が老齢基礎年金を受給する場合に、一定条件を満たしていれば配偶者の老齢基礎年金に加算される形で振替加算が支給されます。ただし、対象者は昭和41年4月1日までに生まれている方に限られるので、2024年時点で58歳以下の方は対象外です

このような老齢基礎年金または老齢厚生年金に加算される年金を、繰り下げ期間中は受け取れないので、注意しましょう。

長生きしなければ損する

年金繰り下げ受給は長生きしなければ、その分損をする仕組みです。

年金受給の開始を遅らせることで受給額が増える一方、一定の年齢まで受給できなければ、累計受取額は減少する可能性があります。

そのため、通常の65歳から年金を受け取ったほうが、累計受取額が多くなるケースもあるでしょう。

このように、損をせずに年金を多く受け取りたい場合は、良好な健康状態を維持する努力が必要になります。

遺族年金は年金繰り下げ受給の恩恵を受けられない

遺族年金の受給額は、被保険者が65歳時点の年金額をベースに計算されます。

したがって、被保険者が年金の受給を繰り下げた場合に増額される分は、遺族年金には反映されません。

そのため、被保険者が長生きして増額された年金を長い間受け取ることができれば有利ですが、もし早い段階で亡くなった場合、遺族が受け取る年金額は繰り下げ前の金額に基づくため、結果的に損をすることになります。

年金繰り下げ受給が向いている人

年金繰り下げ受給が向いている人の特徴は以下のとおりです。

年金の繰り下げ受給が向いている人
  • 年金額が少ない
  • 年金の受け取り開始まで資金に余裕がある
  • 長生きできる自信がある

年金額が少ない方は、繰り下げ受給をしても非課税の範囲で収まる可能性が高く、社会保険料の負担も少なくなる場合があります。国民年金にしか加入できない自営業者やフリーランス、専業主婦(夫)の方も該当します。

また、年金繰り下げ期間中の生活費に困らない程度の資産がある方には向いている年金制度です。現金の貯金だけでなく、事業収入や資産運用などさまざまな収入源を作っていれば、リスクヘッジにもなるのでおすすめです。

例えば、毎月生活費に20万円かかる場合、年間で240万円必要です。5年受給を遅らせて70歳から年金を受け取る予定なら、5年分の生活費である1,200万円を最低でも用意する必要があります。

年金繰り下げ受給は、受給を始めてから長く受け取るほど累計受取額が多くなるため、長生きする必要があります。そのため、健康状態が良好で、長生きする見込みがある方は年金繰り下げ受給が向いているでしょう。

年金繰り下げ受給の手続き方法

年金は65歳になったからといって自動的に支給が開始されるわけではありません。

そのため、繰り下げ受給を開始したい年齢(66歳以降)に近づいて来たときに、最寄りの年金事務所か街角の年金相談センター請求書を提出する必要があります。

年金繰り下げ受給手続きが完了した時点で加算率が決まるため、手続きを希望よりも早めにしてしまうと、生涯受け取れる受給額が少なくなる可能性があります。心配性で早めに手続きしたくなる方は、申請時期に注意しましょう。

参照:日本年金機構「66歳以後に老齢年金の受給を繰下げたいとき

年金繰り下げ受給もゆとりのある老後対策の一つ!

年金繰り下げ受給は、最長75歳まで受給開始時期を変更でき、繰り下げる期間が長いほど受け取れる年金額は多くなります。

ただし、年金の受給を遅らせることは、仕事を定年退職してから受給開始するまでの生活費が必要になったり、税金や保険料が上がる要因になったりします。

そのため、資金に余裕がある方や、年金額が少ない方、長生きできる自信がある方なら、年金繰り下げ受給の恩恵を十分に受けられるでしょう。

よくある質問

年金繰り下げ受給のよくある質問を紹介します。

年金繰り下げ受給とは?

年金繰り下げ受給とは、原則として65歳から受け取れる年金を66歳以降から受け取り開始することです。

年金を繰り下げたほうがいい人は?

年金を繰り下げたほうがいい人は次のような特徴に当てはまる人です。

  • 年金額が少ない
  • 繰り下げ期間中の生活費に余裕がある
  • 健康状態が良好で長生きできる自信がある
年金繰り下げ受給止める手続きはできる?

年金繰り下げ受給の手続きが完了し、受給権が発生してしまうと、繰り下げ請求を取り消したり、変更したりすることはできません。

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この記事を書いた人

アメリカの大学で経済・会計学を学ぶ。Associate degree(准学士号)を取得後、不動産事務やWeb広告営業など様々な業界を経験。

現在は、ファイナンシャルプランナーとしてWebライターの活動をしながら自身のブログやSNSで20代に向けた「お金の基礎知識」について発信をしている。

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